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先日、私のホームページ内の掲示板で日清戦争時の王宮占領事件が問題となった。その時、「漫読斎」と名乗る方が以下のような発言をしていた。今回はすこし、この点について考えてみよう。
「ところが、『日清戦史』はもとより編纂物であり、その目的は「日清ノ戦役ハ明治二十七年[清国ノ光緒二十年西暦一千八百九十四年]七月ニ起リ(中略)而して本史ハ専ラ陸戦ニ関スル事蹟ヲ叙述ス」と明記されているのですから、本書に日清間の陸戦では無い「王宮占領」の「記述」を求めることそれ自体が、研究手法として不適切であり、いわば縁木而求魚の類です。また、既に具体例を示し貴兄もご理解下さいましたが、中塚は文献の読み込みが疎漏であり、且つ史料性を考慮するという文献史学の基礎を軽んじた結果、彼自身が問題視した『日清戦史』の「記述」が、逆に、彼自身が評価した「草案」「報告」とほぼ整合することに、遂に気づくことは無かったのです。
なお、中塚は部長会議録中からの引用に際し、八文字を費やして十七文字を中略し文意を改竄した経歴を有する人物ですから、上に記した「基礎を軽んじた」「気づくことは無かった」との表現が適切であるか否かについては、私自身、詐らざる所、大いに疑問を抱いています。」
これだけでは、何を言わんとしているか理解し難いので解説します。日清戦争について書かれた資料の中で、中塚明氏が福島県中央図書館の佐藤文庫から発見した「日清戦史草案」の内容、及びその記載された文章の信頼性についての議論が行われていました。そこで「漫読斎」と名乗られる方が、述べられたのが上の文章です。簡単に言えば、中塚氏の研究に対して、批判しているのです。
ここで まずはじめに気になるのは、『本書（日清戦史）に日清間の陸戦では無い「王宮占領」の「記述」を求めることそれ自体が・・・不適切』という点。当然研究者であるならば、日清戦争を戦うに際し、日本軍は食糧や人夫を現地で調達する前提だったから 是非とも朝鮮政府の協力が必要だったことはわかっているはずです。従って、「王宮占領」があってはじめて清と戦う事が出来たのです。それから考えれば、「王宮占領」は日清戦史の序段にあるのは当然でしょう。それを知りながら 『研究手法として不適切であり、いわば縁木而求魚の類』と言う意図がどこにあるのか。
次に、『中塚は部長会議録中からの引用に際し、八文字を費やして十七文字を中略し文意を改竄した経歴を有する人物です』と書かれた点。これは、結局何をあらわしているのか解りませんでしたが、何かの研究発表についての意見なのでしょう。一般の人が知らないこういった（勿論それが事実かどうかもわからない）文章を書くからには、それなりの名の知られた研究者なのではないでしょうか？インターネットは、ある程度 匿名であることが許される世界です。それは私も否定はしませんが、それなりの発言をしようとするならば、まず本名で行うべきでしょう。ましてや、研究者であるなら、なおさらです。それ以上に、研究者であるならば 自分の意見を公の場で発表すべきでしょう。それをコソコソとこんなインターネット上の個人の掲示板に匿名で投稿し満足しているとなれば、学会では相手にされないので、こんな所で発言していると思われても仕方がないでしょう。 「漫読斎」と名乗られる方は『この「草案」表記は「(前略)之ヲ朝鮮王宮ニ対スル威嚇的運動ノ計画ト名ケ、左ニ掲ケテ以テ読者ノ一覧ニ便ス。」と続きます。また中塚は、「草案」について「朝鮮国王を「擒」にするなどのあからさまな用語が使用されており、日本側の意図を直截に現している。」とも述べています。もっとも、この「草案」表記には、「計画ノ精神ヲ按スルニ」と前置きが附されています。』とも書いています。中塚明氏による日清戦史草案をこちらのページに掲載してありますので読んでもらえるとわかりますが、この文章にはいくつかのトリックが仕掛けられています。以下、それについても書いてみましょう。
日清戦史第二冊決定草案第十一章の構成は、以下のようになっています。
１．当時の京城付近の緊迫した情況。
２．牙山に清兵が入京したという情報が入り、軍として牙山へ兵を出そうと決定した。
３．大鳥公使の意により、南下を取りやめ まずは王宮を取り囲むことに決定する。
４．ここで、大項目として「朝鮮王宮ニ対スル威嚇的運動ノ計画」の部分に、はじめて「之ヲ朝鮮王宮ニ対スル威嚇的運動ノ計画・・・」が出る。
５．運動の計画として、各部署とその任務が記載される。
６．任務・部署・約束と続いた後に、この計画が秘密である事が書かれ、その後に「計画ノ精神ヲ按スルニ」が出てくる。
７．次の大項目として、「朝鮮王宮ニ対スル威嚇的運動ノ実施」となり、実際の行動内容が書かれる。
８．他部隊の その時の動きと その後の情況。
およそ、このような流れとなっていました。「漫読斎」と名乗られる方が書かれる内容をそのまま読めば、草案はあくまで計画であるとの感想をえるであろう。しかし、実際には大項目の「朝鮮王宮ニ対スル威嚇的運動ノ計画」の部分に一部分書かれている内容の中身から都合の良い部分のみ抜き出しているのがわかる。
更に、「計画ノ精神ヲ按スルニ」と書かれた部分を引用してみると、「以上ノ計画ノ精神ヲ按スルニ、歩兵第二十一聯隊長ノ直接ニ率ウル同聯隊ノ第二大隊（第八中隊欠）及工兵一小隊ヨリ成ル一団ヲ動作ノ核心トシ、之ヲシテ不意ニ起リテ王宮ニ浸入シ、韓兵ヲ駆逐シ国王ヲ擁シ之ヲ守護セシムルニ在リ。而シテ其他ノ諸隊ハ外部ノ動作ニ任シタルモノニシテ、即チ其一部ハ主トシテ京城諸営ノ韓兵ヲ監視シ武器ヲ奪収シテ国王ニ赴援スル能ハサラシメ、以テ核心ヲシテ目的ヲ達スルニ容易ナラシメ、且ツ日本及欧米ノ官民並ニ李昰應一派ノ者ニ危害ヲ及ホサヽラシムルニ任シ、他ノ一方ハ万一ノ場合ヲ慮リ京城ニ対シテ旅団幕営地ヲ守護スルニ任シタルモノナリ。」となっている。つまり、「計画ノ精神ヲ按スル」とは、王宮占領の計画を簡単にまとめた部分を指すだけの内容なのである。「漫読斎」と名乗られる方は 当然この内容を知っていただろう。知っていながら わざととしか思えないような言い回しをする意図はどこにあるのだろう。悪意をもって人に誤った歴史観を植えつけようとしているとしか 思えないのである。
これを読んだある人は、「ああ、蹇蹇録と同様に比喩的表現かと思っていたら「按」ですか・・・。「朝鮮王宮ニ対スル威嚇的運動ノ計画」も名付けて読者の閲覧に。理解していないならどうしようもなく低レベルですねぇ。だから史料批判も「真偽」しか対象にできないと考えれば、話の筋は通りますが。（笑）・・・しかも、意向に沿う記述が「按」ですからねぇ。」などと、まんまと「漫読斎」と名乗られる方の罠に簡単に引っかかってしまう。しかも、勉強をしている人ほど 誤った考えを植えつけられ、さらに勉強する事によって、さらに誤りを増幅させてしまう。気をつけなければならないと思うのである。
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