題 名
日 付
2005年03月23日
概 略
秩父事件とはどのような事件だったのか？
秩父事件。今回、映画「草の乱」上映の関係で 幾人もの人と話してみたのだが、正直秩父事件の事を知っている人の少なさに驚いた。よくわからない、それが正直な答えなのだ。秩父事件の発生した時代からもう１２０年もすぎているし、人々の関心はそんなところには無いことも理解しているつもりだ。歴史が好きな人達の興味は 幕末・維新の時期から一気に日清・日露へと飛び越えていってしまうことが多い。歴史のなかでは かなり地味な時期と言える。そんななかで、私達はどのような活動をしているだろう？もっと簡単で、わかりやすく説明したなら理解してもらえるかもしれない。今回はそう考えて 秩父事件をもう一度ふりかえってみよう。
１８８４年（明治１７年）１１月１日、秩父郡吉田村の椋神社に集合した人数およそ３０００名。ここで蜂起した彼らは、小鹿野町で警察や高利貸しを打ちこわし、秩父の中心である大宮郷（現在の秩父市）に入る。ここを革命本部として政府に対抗した。これが 秩父事件のあらましです。椋神社の境内には、「秩父事件関連略図」が設置されているが、これはとてもわかり易いので写真をみてください。
地図で見るように、彼らは蜂起した秩父の町を出て、児玉郡の方まで出て行ってます。最後は、長野県の南佐久郡の方まで進んでいます。
秩父事件は、埼玉の秩父のみではなく、群馬、長野の三県のまたがる程の大きな事件だったのです。しかも、当時 治安を担当していた警察までも追い出し、自分達の力による反政府権力の拠点を作り上げたのです。彼らを鎮圧するのに政府は 憲兵隊を投入せざるを得ませんでした。これはつまり、単なる事件というようなものではなく、反乱と言って良い程の規模を持つ行動だったのです。
ではなぜ彼らは、蜂起したのでしょう？これは重要な問題です。どのような結果もまずその原因があるはずです。蜂起せねばならなかった理由、それこそが秩父事件の意味を端的に示していると言えるでしょう。それらを列挙してみると
１．生糸の主な生産地帯であったこの地方において 生糸の価格暴落の影響で収入が減った。
２．教育費の増大−学校の建設費用を出させられたばかりでなく、子供を学校へ通わせるのに出費が嵩んだ。
３．高利貸しによる厳しい取り立てと差し押さえの多発。
４．村費の増大による負担増。
等々があげられる。養蚕は、他の農業と比較して初期投資が大きい。その費用を金貸しから借りていた人々にとって、生糸価格んの暴落は耐えがたい猛威だった。これが為に身代限りの処分を受けた者が多数いた。負債の据え置き、年賦の請願は受け入れられず、その上平等であるべき警察までもが高利貸しの味方をするようになった。そして、蜂起。
彼らは、しかし最後まで粘り強く話し合いでの解決を求めた。借金も払わないと言っていたわけではなく、支払いを延期したい旨 申し込んでいたのである。しかし、その要求は最後まで受け入れられることは無かった。蜂起後、これら金貸しが襲われたのは 当然の結果だった。証文は破られ、燃やされ反古にされた。それが、この秩父事件に参加した人々の最低限の要求だったから（もっとも、これらの証文は後ほど復活してくることになる）。彼らは大宮郷を占拠した時点で その目的の大半は達せられたものと判断してしまったのも無理からぬことである。しかし、秩父事件の指導者達の目指していたものは、まだその先まで続いていた。このような不景気を招いた政府の失策を糾弾し、より良い社会を作る−その為には反乱も辞さないという強い意志をもった指導者達にとって、大宮郷はその手始めの一歩にしか過ぎなかった。秩父事件の参加者と、指導者の意思の乖離が 憲兵隊と蜂起軍との戦闘の敗退の原因になったのだ。
ところで、こういった事件と、江戸時代にあった農民による一揆とは どこがどう違っているのだろう？私も実はこの違いがよくはわからない。ただ、一揆の場合の目標はあくまで、自分達の生活向上を目指す要求を支配者に提示する（指導者達は、その結果死罪を言い渡される。しかし、彼らはその時点から「義民」と呼ばれ、人々の敬われ、尊敬される存在となる。総理の田代栄助 その時既に５０歳になっていたが、彼は自分が義民と呼ばれるであろう事を想像し この事件に参加したと言われている。）事が最終目標である。しかし、秩父事件においては、その要求を提示するのみに留まらず、その先−つまり政治の改良迄を要求している。この違いが 秩父事件を際立った存在としていのだ。その違いは今の私達から見れば それほど大きな違いには見えないかもしれない。しかし、当時は 画期的な思想の転換だった。明治の維新以降はじめて民衆が政治の表舞台に立った大きな意味のある事件、それがこの秩父事件なのだ。
