題　名

誤った自由観

日　付

2002年05月13日　2004年01月13日更新

概　略

もう一度自由のもつ意義を見直そう

　娘の通っている幼稚園は、仏教系の幼稚園で宝徳院というお寺さんで運営している。その幼稚園は　１ヶ月遅れの「子供の花祭り」というのを先週開催した。本来の花祭りは　４月８日に行われるのであるが　丁度その時期は「入園式」の時期なので　遅らして開催するのだそうだ。
　幼稚園の園児は現在２００名弱。その子供達が幼稚園のホールに集まってくるのだから　かなり騒然としている。日常生活と離れての特別な行事であるから　おしゃべりが弾むのも無理からぬことであろう。それは　ある意味では仕方のない事かもしれないし、話を止めさせるのは先生達の役目であろう。私は　その事を言いたいのではない。それよりむしろ、花祭りを見にきていたお母さん達の態度が問題だと思う。
　「うるさい」のである。非常に「うるさい」のである。それは　ひさしぶりに幼稚園で会って、お母さん同士で話したい事もあるであろう。話したいのはわかる。しかし、「おしゃべり」をして良い場合と「おしゃべり」をして悪い場合の区別ぐらいはつけてもらいたいのである。こども達は　先生の話を聞いて「おしゃべり」を止めているのである。ところが　参観にきているお母さん達が話しを続けていてどうする？

　後で、副園長先生の話があった。その話のなかにこのような話があった。
　「『おしゃべり』をしたり　『うるさく』している子供達に　『ねえ、君達　話をしているのはいいのよ。』。『あなた達には　話をする自由というものは与えられているんだから』。『でもね、あなた達が話しをする自由があるのと同じように　他の子供達にも　静かにお話を聞く自由があるのよ』。と、話ているんです。そう話してもわからない子供達とは、一旦ホールの外に出て　その子供達が話しを止めるまで　待つんです。」
　この子供達の両親ですから　多分昭和３０年代から昭和５０年代の生まれた人たちでしょう。高度経済成長の時期に生まれた人たち、自由に生まれ自由に育った人たち。はたして　当時の日本人の教育は正しかったのであろうか？他の人たちの「静かに　子供達の活動を見たい。」とか「静かに　園長先生の話や子供達の歌声を聞きたい」という想いに気付かない。そんな教育が　正しかったのであろうか？それならば、今のこの子供達のほうが　よっぽど正しい「教え」を受けているのではないだろうか？

　同じ事を　園長先生（宝徳院の住職）もおっしゃっておられた。この方は　以前学校の教師をなされていたのであるが、そこでは個人の意思を尊重して「貴方が　運動が好きで勉強が嫌いなら、放課後十分に運動させてあげるから　授業中は静かに別な事（例えば寝ていても）をしていていいよ。奉仕活動や園芸が好きなら、そういった時間に十分活動させてあげるから・・・。但し、勉強したくて学校に来ている人の邪魔はしないように。」と　話していたそうである。個人個人の自由を尊重する事は　構わないのだ。ただ、他の人たちの　例えば「勉強したい」とか、「ゆっくり本を読みたい」とか、「静かに話しを聞きたい」といった気持ちや想いを邪魔しないようにすべきなのである。お母さん達の一体何人が　このような言葉の意味を理解したのであろうか？
　子供達は真剣にお釈迦さまの小さな仏像に「甘茶」をかけてあげていた。その重要な　そして大切な行為を　お母さん達のおしゃべりで邪魔してはいけないのではなかったか。

　戦後の教育で　私達は自由という事の大切さを　教わってきた。それは　明治以降自由というものを十分に持ち得なかった一般の人々にとって画期的な出来事だったと思う。自由というものが無かったからこそ　例えば渇いた人が水を欲しがるように自由を求めたのだ。その為に　どれほど多くの人々が犠牲になった事か。しかし、今それが巷にあふれんばかりに氾濫した現状のなかで　自由にたいする誤った考え方がはびこっているようである。自由とは本来その個人個人が普遍的に持ちえなければいけないものであるのと同時に　自分の自由だけでなく他人の持つ自由についても考察すべきものなのではないか。

　だからといって私は、「戦前の教育に戻りましょう」といった考え方には　まったく賛同は出来ない。園長先生は　こうも言っておられた。我々は、国に守られ、自然に守られ、人にまもられ、家族に守られて今　こうして生きているのだと。そのとおり、私達は、「国」にこんなにも守られて生きている。そのことの大切さを身をもって知っている。だけど、その反面で私達の「国」は　韓国をあるいは中国を　台湾を　その他アジアの多くの国々の自由と平和を乱してきた過去を持つている。我々の「国」を守るのは当然であるが　だからといって他の「国」の人々を犠牲にして良いということには　ならないのだ。この点は　断じて譲る事ができない基本中の基本である。明治に始まる近代日本は、他の国の人々を　他の国の生活を壊しつづけてきたのだ。その点を忘れてはならない。自分の自由だけを声だかに叫ぶことのみではなく、他の人々の「声にならない自由を求める声」を無視してはいけない。明治以降の日本とその教育には　この点に対する配慮がまったく欠けているのだ。このことを忘れてはいけないのである。
　この文章は、「明治を考える」のホームページに掲載していましたが、内容が私見に近いものなので、こちらのページに移動いたしました。（２００４年１月１３日）